第1章:神様じゃあるまいし(後編)
<トリノ・ガーデン ビジネス小説 第1部:神のオペレーション 第1章続き>
翌日には、もう藤沢の栃木出向が決まっていた。問題を完全に解決しなければ、帰って来られる見込みはない。
憤りを覚えながら、藤沢は机の整理をはじめた。まもなくこのオフィスから藤沢のデスクはなくなる。自分になんの落ち度があったというのだろう…衛生管理のオペレーションも危機対応も、同業他社の水準に比べてなんら劣っているとは思えない。
同僚たちは、腫れ物に触れるようにして藤沢に接する。いつもよりはりつめたオフィスの空気…気遣わしげな空気を、内線電話の呼び出し音が破った。
「はい…カフェレストランツ、藤沢です」
「受付です。トリノ・ガーデンの上山様がこられてるんですが」
「上山さん…?アポイントはとられてますか」
「さあ…ただ西脇様からのご紹介ということで」
「西脇さん…の?」
聞きたくない名前を聞いてしまった。出向を前に、またぞろ面倒ごとだろうか。
「すぐに行きます」
電話を切って、受付に向かうと一人の青年が立っていた。藤沢に名刺を差し出す。
「トリノ・ガーデンの上山です。西脇様からのご依頼で参りました」
名刺には『代表取締役』とある。若いし、とても社長には見えないが…。
しかし、西脇部長の紹介とあれば無下にもできない。
「あの、どういったご用件で」
「栃木の工場に同行させて頂きます」
「え?」
「藤沢様と宇都宮パティスリーの工場に参りまして、御社製品の製造工程を見直させて頂きます」
出し抜けの申し出にぽかんとしてしまう藤沢だったが、経緯の説明を求める前に、上山が勢いよく頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
勢いにつられて、藤沢も頭を下げてしまう。
「え…あ、よろしくお願いします」
顔をあげると、上山はニコニコと笑っている。裏のない、自信ありげな笑顔。
頼りなく不安で仕方がなかった藤沢の気持ちに、少しだけ安心が生じた。
「とにかく中へ…お話をお聞きします」
相手はアポなしの初対面だ。印象にだまされまい…と、心を引き締めて、藤沢は上山を事務所に招き入れた。
二章に続く。
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